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誰もが住み慣れた地域で輝けるように

2017年05月31日

畦道のパンフレットを持つ代表の今枝美恵子さん(右)と副代表の鈴木悠太さん


148名。足助・旭・下山・稲武・小原地区で精神障害者保健福祉手帳を所持する人の数です。精神科医療機関、就労支援施設は都市部にしかなく、当事者と家族は不便を余儀なくされています。  そんな中、代表の今枝美恵子さんと副代表の鈴木悠太さんが、「誰もが住み慣れた地域で輝けるように」を理念に掲げ、5月1日に足助地区新盛町にデイサービス型地域活動支援センター畦道(あぜみち)を開所。人手が足りない山村部の仕事を担ってもらうことで、精神障がいの方の居場所づくりにつなげ たいという2人の想いが形になりました。刈谷市、碧南市でそれぞれ働いていた鈴木さんと今枝さんがなぜ豊田市に畦道を開所することになったのか。経緯とこれからを伺いました。

実は身近な精神障がい 

 まず、精神障がいについて聞いてみると「代表的な病気である統合失調症の発症率は100人に1人。うつ病は4人に1人くらい」と鈴木さん。精神障がいは、誰もが発症する可能性のある身近な病気だと教えてくれました。発症してすぐは、幻聴や妄想が顕著なことがあるそうですが、適切な治療をすれば症状をコントロールしながら、その人らしく働き、暮らすことが可能だそう。

病院の近くに引っ越す現実

足助地区出身の鈴木さんは、高校で進路を選ぶ際、「これからは高齢化社会だ」と聞いて、将来実家に戻っても職に困らないだろうと日本福祉大学に進学しました。在学中の精神科病院でのアルバイトで、患者さんに寄り添うソーシャルワーカーの仕事に憧れ、高齢者福祉から精神障がいの分野に進みます。
 卒業後に勤務した刈谷病院は西三河に住む精神障がい者の、緊急受入れ先の1つでした。ある時、稲武地区から緊急搬送され入院した方が、退院後家族と一緒に病院の近くに引っ越して来ました。以前から、豊田市山村部に通える場所がないと懸念していた鈴木さんは、その現実を目の当たりにして「精神障がい
の方への福祉サービスがないために住み慣れた家、地域を離れなければならないのは、本当に残念」と事業所を作ることを考え始めます。

通所して来ない人のためにも何かしたい 

今枝さんは、認知症の祖母を介護していたヘルパーに憧れて日本福祉大学に進学。卒業後の進路に迷っていた時、実習先の精神科病院で患者さんに、「やりたいことをやってみたらいい」と背中を押されたことががきっかけで、碧南市の精神障がい者の作業所で働き始めます。
 内職を一緒にしながら、利用者の悩みや相談を聞いていた今枝さん。勤続4年が経つ頃には、作業所のある碧南市、隣の高浜市の精神障がいの方たちの状況がわかるようになってきました。 集団生活に馴染めなくて作業所に通えない、親御さんを亡くして住まいに困っている。そんな当事者の声に応える福祉サービスを充実させていく必要性を感じ始めます。そこで、上司に提案してみたそうですが、返ってきたのは「事業の拡大は考えていない」という答え。「方向性の違いを感じましたが、社員は上司と私の二人だけ。それ以上の展開が望めないことに閉塞感を感じました」と今枝さんは言います。

研修会で再会し、意気投合

大学の同期だった二人は、お互いにもやもやを感じていたタイミングで再会を果たします。愛知県内の精神保健福祉士が参加する研修会で、実行委員の飲み会があり、たまたま隣に座っていた美恵子さんに、鈴木さんが山村部での事業所開設についての相談を持ち掛けました。「地域に入り込んでやっていきたい
と聞いて、面白そうだと思いました。前年度の研修で鈴木くんの発表を聞いて、福祉と地域への熱意をすごく感じたので、一緒にやっていこうと決めました」と美恵子さんは振り返ります。

事業所開設に向け、一直線

その後、任意団体を立ち上げ、準備を始めた二人。仕事を続けながら、山村部で開講している豊森なりわい塾やミライの職業訓練校に参加したり、各地区の保健師さんに会ったり。山村部の精神障がい者を取り巻く環境の聞き取りや、地域とのつながりづくりに奔走しました。昨年の3月からは山村部の交流館で座談会、交流会、すでにある事業所の見学を定期的に開催し、当事者と一緒になって事業所の姿を考えてきました。

地元にも理解を得て、開所 

おいでん・さんそんセンターの仲介で、家主と地域住民の理解が得られ、新盛町で五平餅店を営んでいた旧店舗を事業所として借りられることになり、今年の4月には、「特定非営利活動法人みち」を立ち上げ運営体制を整えました。5月1日の開所式には、市障がい福祉課など行政、関係団体など29名もの参加があり、鈴木さんは「多くの方に支えてもらい、すごくありがたい」と心境を述べています。


国道153号線沿いにある畦道の建物


その人にあった仕事を

利用者には、薪割り、農作業など、当初から考えていた地域の仕事に加え、室内でできるコーヒー豆の選別作業などをやってもらう予定だそう。「仕事に人を当てはめるんじゃなくて、利用者の方ひとりひとりに合った仕事をやってもらいたい。これから地域の方と交流するなかで、どんな小さな仕事でも見つけて
いきたい」と美恵子さん。

誰もがその人らしく働ける会社にしたい

たくさんのつながりの中で、畦道の設立を実現させたお二人。夢を叶えたと思いきや、すでに次の目標が定まっています。「山村部は広いので、ここの事業者に来るにも不便を感じる方がまだいる。拠点を増やして、例えば稲武だったらブルーベリー、下山だったら五平餅や菊の栽培など、地域の特性にあった作業をやっていけたら」と鈴木さん。美恵子さんは、「利用者本人か、配偶者の方に収入があると、ここに通うのに利用料がかかります。その負担感をなくしたいし、経営としても利用者の数=事業収入となり続けるのは良くない。精神障がいの方以外でも、例えば子どもが小さいお母さん、高齢のおじいちゃんおばあちゃん、どんな人でも、好きな時に自分に合う仕事ができる場所にしたい。仕事のバリエーションを増やして、派遣会社のようにできたら」と意気込んでいます。
 精神障がいだけでなく、誰かに支えてもらう境遇に、誰もがなり得るのではないでしょうか。「どんな境遇になっても、誰もが自分らしく働ける」環境づくりのために前進し続ける2人は、地域に安心の連鎖を生み出しはじめていると感じます。(木浦幸加)



今枝さん、鈴木さん、関係者の皆さんで内装リフォームをした


開所式の最後に、鈴木センター長が挨拶し、2人の激励をした

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