~山村地域の資源や魅力を活かして、こども達の成長を願う~





名古屋市天白区にある「株式会社平針スイミングスクール」は、43年にわたりベビーからシニアの方まで三世代が通うスイミングスクールとフィットネススクールを運営しています。また、小学2年生以上の児童が、山や海での活動で学びを深める「青空スクール」や「ファミリー農業体験」を実施しており、豊田市下山地区をフィールドに、青空の下、四季を通じて「見て・感じて・考える」体験を重ね、自然の中で“生きる力”を育む活動をしています。今回は、その取り組みについてご紹介します。
【下山地区との出会い】 話し手:成田和コーチ

下山地区羽布町とのお付き合いは、もう20年以上になります。年間を通じてファミリー農業体験や、こども達だけの青空スクールでもお世話になっています。
きっかけは、ある日たまたま当時の下山村を通りかかった時に、こども達が私達とすれ違う際、リーダーが「ピー」と笛を吹き、みんながサーッと並んで、バイバイと手を振ってくれたのです。
当時、名古屋の小学校では「知らない人と会ったら、目をそらして逃げろ」みたいな雰囲気がありました。そんな下山のこども達と都会のこども達を交流させてあげたいと思ったことが始まりでした。
うちの教室に通ってくる子は名古屋市内のこども達が多いです。今のこどもは、アスファルトの下に土があることを知らないのです。これを見て、まずいのではないかと焦りを感じたのが、本当は一番のきっかけだったかもしれません。
下山では普段できない土に触れる体験から、暑さ寒さや雨も自然の一部だということや、小さな生き物にも命があることを実感します。
小さな生き物に優しくできると、人にも優しくできるし、里山のくらしの知恵や工夫も学んでいきます。人と触れて、感じ取れるものも解りあえることもいっぱいあります。身体を鍛え、心を育む。私達の目的は、こども達の健やかな成長です。

【下山とご縁をつなげていった経緯】

先ほどの、下山で挨拶をしてくれたこども達の学校が旧和合小学校だったのですが、そこの杉本校長先生に会いに伺ったのが最初でした。山村地域のこども達と交流させたいと相談したところ、当時の下山村役場を紹介していただきました。
まだ山村交流などあまりなかった時代なので、役場でも半信半疑な反応だったのですが、私達が企画書を持って何度も相談に通っているうちに、村の補助金を使って羽布自治区の田畑で農業指導をしていただけることになりました。
ただただ、仕事抜きでも「都会のこども達を下山に連れてこないと駄目」っていう気持ちで、企画書を山盛り作って役場へ通いましたね。
【地域のみなさんの反応は】
当時はわからないなりに、私達が必死になって草むしりしたり、ジョウロで水やりしたりしていると、最初は「街の人に畑仕事ができるのか」という感じで遠巻きに見ていた近所のお爺さんたちが「そんなジョウロなんかでやっていてどうするだ」と言って、いろいろ教えてくれるようになりました。
その後、「もっといろんな体験をこども達にさせたい」となった時に、村の中心になる人が集まる説明会を開いてやると言ってくださり、それでようやく下山への入り口ができたという感じです。
黒坂町の有機野菜を作っている女性グループともつながり、平針の教室でお野菜を売ってもらったりもしました。今は羽布町のKINOファーム代表の木下貴晴さんが平針へ来て販売してくれています。
農業体験でお借りしている農地の元の地主さんには、地域のお祭りに呼んでいただいたり、「へぼ追い」も一緒にさせていただきました。へぼは捕ったその場で成虫を素揚げにしてくれて、美味しかったです。お祭りだけでなく、地域の草刈りや飲み会にもたびたび参加させてもらうなど、長年地域の皆さんに受け入れていただいて、私は今年、下山へ移住を決めました。
また、豊田市のセカンドスクール事業「おいしい体験Inしもやま」にも参加させていただいています。

【社内での反応は】

下山はもう一つの職場なので、社員はみんな必ず関わっています。水泳を教える、体操を教える、下山に行く、という風に下山はひとつのコースで、社員だけでなくスクール生の保護者の皆さんも、お正月のお餅もお米も下山のものを買うというのが、今では当たり前になっています。
当社は名古屋の下山観光PRサテライトだと勝手に名乗っています(笑)。取引先の幼稚園やスイミングの仲間だとか、いろいろなところに下山を広報していて、新聞折り込みにチラシ入れる時にも、必ずコースに下山も載せています。
「いつもお世話になっている私達が、どんどん人を連れて行かないと」という気持ちで、下山の活性化につながることなら、できることをやらせてもらおうと思っています。先日振り返ってみたところ、毎月平均30名で下山に訪れてきましたが、計算すると25年でのべ1万人で、下山の皆さんにお世話になってきました。
【これからの展望】
同じ場所に一年間を通じて通うと、旬の野菜が何なのか、季節の花や寒暖差など、本当に四季を感じ取れる感性が湧いてきます。また、体験して「楽しかった」で終わらずに、それがどうしてこうなるのか・なぜなのかを考えて、毎回観察ノートに記録したり、捕まえた生き物や採れた野菜を描きます。結果、ものすごく観察力がつくし、ものを観る目が変わってくるのです。植物の育成に必要な土・バクテリア・栄養(肥料)や生態系についても学んでいきます。
本当は小学生までのプログラムなのですが、中学生になっても参加したいと来てくれたり、高校生になってもボランティアでコーチの手伝いをしに来てくれることもあって、「学んでよかった」と思ってくれた結果かなと、嬉しく思っています。最初の青空スクール生はもう30歳を過ぎていますが、獣医になりたいと北海道の獣医学科に進学したり、イルカの研究をする大学へ進学したり、そういう子が増えていきました。JAに勤めた子もいます。
また、理屈じゃない学び合いっていうのがあるのです。暑い中、農作業やキャンプなどを乗り越えて、最後に腰掛け山荘の気持ちのいい環境で泊って、とっても美味しいご飯を有難く食べる。大変と快適を同時に体験することで、すごくこども達が育つのです。安全の確保と命を守るのは大人の仕事。あとはお兄ちゃんお姉ちゃん達が年少のこども達の面倒を見て、自分達で考えて成長していく姿を見せてくれる。それに感動しているから、ずっと続いてきましたし、これからも下山へ通い続けていきたいです。