~技術で森林の課題解決を目指す~





自動車分野における開発支援を行う株式会社モビテック(本社:名古屋市)は、社員の中の有志で森林ボランティアチーム「森テック」を立ち上げ、2022年から豊田市の山林で間伐作業に取り組んでいます。活動は20回を超え、メンバーも当初の4人から8人に増えました。自ら森づくりを実践するだけでなく、社内に向けて定期的な発信や勉強会も開催し、啓発活動にも注力しています。チームメンバーは全員が豊田市外在住。業務外でもある森での活動にめり込む訳についてご紹介します。

2025年2月22日、豊田市万根町の山あいに森テックのメンバー6人が集まり、定例の活動を行いました。この日は雪のため予定していた間伐作業を中止し、翌週に社内イベントで使う材料の加工を行いました。自社の役員や従業員に向けた各プロジェクト報告会での出展で、間伐場所から丸太を調達し、展示するスツールや装飾品を制作。モノづくりが好きなメンバーが多く、黙々と取り組んでいました。チームリーダーの松嵜聡さん(50歳)は、「多くの人に木に触れてもらい、社会問題や森林の課題を知るきっかけになって欲しい」と、思いを話します。
豊田市は市域の7割が森林であり、このうち約半分がヒノキやスギなどの人工林です。矢作川上流域の人工林を適正に管理するために合併後、森づくりを推進しています。過密人工林の間伐や木材の利活用、人材育成について方針や計画を示し、積極的に取組んでいます。計画では、市民や企業などと連携した共働による森づくりにも触れ、森林の活用と保全に対する理解と、その活動への参加を呼び掛けています。

【企業・団体側の動機やきっかけ】

モビテックテクニカルセンター(安城市)で
1985年に創業したモビテックは、今年40周年を迎えました。森林ボランティアの企画がスタートしたのは2022年の春ごろ。松嵜さんは、「SDGsやカーボンニュートラルという言葉が世間に広まり始めたころだった」と当時を振り返ります。これまで会社として社会貢献活動を積極的にできていなかったことが活動の背景。管理職として社会への責任を感じ「何かやれることはないか」と模索していたそうです。個人的にも猛暑や温暖化の影響を肌で感じていたことも大きいと言います。
活動のきっかけは、新聞記事で「おいでん・さんそんセンター」が企業と山村地域の交流を支援していることを知ったこと。センターを訪れ、山村の現状や他企業の事例を聞き、具体的なイメージが湧いた。その中で森林の活動に興味を持ち、「会社の仲間たちとやれるなら面白いと感じた」と、松嵜さん。当時の役員に相談したところ、「素晴らしいことをやろうとしているので是非進めて欲しい」と背中を押され、動き出しました。
【実現した理由】
ボランティア組織立ち上げに至るまで、同センターを介し、豊田市森林課や「矢作川水系森林ボランティア協議会(以下、矢森協)」にも相談し、森林に関わる課題や施策、ボランティア活動の心構えなどアドバイスを受けました。また、同年9月に開催された「とよた森林学校」(豊田市主催)の間伐ボランティア初級講座を松嵜さんが受講したことで弾みがつきました。当時について、「森林への向き合い方や間伐技術、安全面について深く学べたことと、ボランティアの先輩方とのつながりができたことが糧になった」と、松嵜さん。そして、翌10月に社内の承認を受け、森林ボランティアチームを立ち上げました。当初はチーム名もなく、同僚4人で発足。先輩のボランティアグループの活動現場に見習いとして参加し、指導やサポートを受けながら実践を重ねました。

【活動内容】

森テックは今年4月から初めて単独で活動を始めました。活動日は月2回、第2と第4土曜日で、作業時間は午前10時から午後3時までの6時間ほど。悪天候時や参加人数が少数の場合は中止にします。間伐場所は0.3haほどのスギ、ヒノキの人工林。30年ほど前に植林され、現在では樹高20メートルほどになり間伐が必要な時期を迎えています。伐採は熟練したプロでも危険が伴う仕事です。スピードよりも安全で確実な作業を最優先して進め、「無理をしない」ことを常に心がけています。倒した木は枝葉を伐り落とし、玉切りし、地面に並べる。搬出するには条件が悪いため、材木としては使うことができない。チーム立ち上げ直後、5人目のメンバーに加わった早川晴久さん(51歳)は、「大変な作業ですが、先輩や山主の方が時々様子を見に来てくれ、励みになっています」と、活動の魅力を話します。
【地域との関係性】
現在、森テックにフィールドを提供している安藤誠治さん(70歳)。現在は市外に在住で、実家のある万根町と二拠点で生活しています。週の半分程度は万根町で過ごし、屋敷回りで田畑を営み、山の管理も行っています。先祖から受け継いだ持ち山を放ってはおけないと、間伐ボランティア初級講座を受講し、有志でボランティアグループ「とよた森仙組」を立ち上げ活動しています。森テックの立ち上げを支援したことで関係が生まれました。安藤さんは、「万根町の世帯数は現在7戸ほどになってしまいました。森テックさんのように街の人が来て関わっていただけるのは良いことだと感じています」と、企業とのつながりを歓迎します。

【社内の反応】

森テック立ち上げ当初は、社内に社会貢献を目的とした活動やボランティアグループがなかったため、理解を得にくかったそうです。しかし、会社から公認を受けることで徐々に浸透。自社のSDGsの取り組みの一環として位置づけることで評価されました。備品費や保険代など活動費用の補助も制度として整えられたことも活動の後押しとなっています。
社内に向けた情報発信も意識し、社内SNSを使い、活動レポートを日々発信しています。また、社員やその家族に向けて森林教室を開催し、森を訪れる機会を提供しています。その効果もあって、今年度に新入社員や女性メンバーも加入しました。「世代や性別を問わず幅広く活動できることが特徴」であり、「社内に普及させていき、仲間が増えてくれると嬉しい」と松嵜さん。仕事や人間関係にも良い影響をもたらしていると語ります。
【今後に向けて】
万根町の高齢化が進むことに対して早川さんは、「まだ少ししか関わっていないですが寂しい気持ちはあります。今後、地元の方々との交流も行っていけると嬉しい」と、話します。
今後の活動については、「間伐材の有効活用をずっと考えている」と、松嵜さん。技術の会社である強みを生かし、木材の循環や利用を増やすことができないか模索しています。「技術で貢献できて初めて企業として森に入った価値が出てくる」と、展望を語ります。
