第10回いなかとまちの文化祭開催 あなたがだいじ♪わたしがだいじ♪〜この世界で共に生きる〜

11月7日(日)、 豊田市駅東口広場とよしばとギャザ南広場にて「第10回いなかとまちの文化祭」が開催され、およそ1,000人の方が参加しました。

いなかとまちの文化祭は、都市と山村を結ぶ「いなかとまちの文化祭~こころを耕すくらしのマルシェ~」と題し、豊田市内の有志の方が集まり、毎年実行委員会を組織して開催されています。いなかとまちが支えあい、つながることで、それぞれの暮らす地域がもっと良く、もっとみんなが幸せになれる場所にしたいという想いが込められています。

第10回のテーマは「あなたがだいじ♪私がだいじ♪」~この世界で共に生きる~」です。誰もが大切な存在であり、この世界で共に生きている。そんな実感を得て欲しいとイベントには様々な試みがされていました。

ステージでは、「お友だちタイム」と題し、その場に居合わせた人が、新型コロナウィルスの感染症対策として距離を保ちながらも知り合うことができるゲームを行っていました。地元消防団ならではのエピソードを歌ったバンド「消防ロッカーズ」のライブや、森林組合に所属するミュージシャンの森と共に生きる様子を歌ったライブ、みんなで一緒になって歌って踊れるパフォーマンスなどがあり、ステージに釘付けになるご家族の姿も見られました。

会場には、地元農家の野菜販売や加工品販売、薪割り体験、ジビエ料理、矢作川の生き物展示など、山・川・森に関わる個人、グループの26団体が出展しました。各店舗に会話のきっかけとなるサイコロの目に合わせた質問が用意され、あちこちで言葉を交わす様子がみられました。
「いなかとまちのシンポジウム」では、「みんなが輝く場をつくろう!」というテーマで3名の方が登壇し、実行委員長の洲崎燈子(すざきとうこ)さんがお話しを伺いました。その内容をご紹介します。


いなかとまちのシンポジウム(左から洲崎燈子さん、野中慎吾さん、今枝美恵子さん、
栗本浩一さん)­­­

アドラーの「共同体感覚」とは

(洲崎)今年のテーマは「あなたがだいじ♪私がだいじ♪〜この世界で共に生きる〜」です。このテーマは、アドラーの「共同体感覚」という概念にちなんだものです。

アドラーの興した心理学の考え方は、しばらく前に出版された「嫌われる勇気」という本で大きな話題になり、たくさんの人の共感を呼びました。そのアドラー心理学の中でも重要な概念が「共同体感覚」です。

共同体感覚とは、他者を仲間と見なし、そこに「自分の居場所がある」と感じられることです。アドラーは家族や職場、学校、地域だけでなく、過去や未来、宇宙全体までも含んだ全てを共同体だと提唱しています。過去の人びとの知恵を継承し、未来の人びとにいい世界を伝えようと努力し、生態系とつながりながら生きていこうという、持続可能な生き方の根本理念です。

アドラーは承認欲求にとらわれず、自己への執着を他者への関心に切り替えていこうと呼びかけます。学業、仕事、交友、恋愛や結婚は全て、「自分はここにいてもいいのだ」と思える場所や関係(所属感)を探すことにつながっています。人は共同体の一部ですが、その中心にいるわけではありません。所属感は、人生のタスクに立ち向かい、共同体に積極的にコミットすることで獲得していくものです。

このシンポジウムのテーマは「みんなが輝く場をつくろう!」ということです。豊田市は、いなかとまちが近くに共存するまちです。今回は、このような環境を生かし、ハンディキャップのある方たちが「自分はここにいてもいいのだ」と思える、生き生きと輝けるような場所を作られている、そんな皆さんを、パネリストとしてお招きしました。今日はみなさんのお話を伺いながら、誰一人例外なく取り残さない地域づくりについて考えていきたいと思います。

それでは、自己紹介をお願いします。

(野中)スーパーやまのぶの自社農園「みどりの里」の野中慎吾(のなかしんご)です。お米とイチゴ、ブルーベリー、スイカを無肥料、無農薬で育てる自然栽培をしています。農福連携といって障がい者のみなさんと農業をやっております。彼らのおかげでたくさんの栽培がやっていけています。

(今枝)足助地区で「畦道」という障がい者福祉施設をやっています今枝美恵子(いまえだみえこ)と申します。畦道は、病気や障がいのある方が日中の活動場所として利用する事業所です。山村地域の自然を活かした仕事をしようということで薪割りや豊田市の間伐材を使った商品を作ったり、農家さんのところにお手伝いに行っ­­­たり、綿から糸をつむぐお仕事をしています。現在利用者の方は27名で、月曜から金曜まで活動をしています。

(栗本)合同会社P―BEANSの栗本浩一(くりもとこういち)と言います。うちの会社はP-BASEという名前で主に介護保険対象のお年寄りの方の生活期のリハビリのお手伝いをしてます。手が動くようになったとかやりたいことが見つかったとか、楽しみがありそうだというところを引き出しながら、手芸ができるようになった方がいれば、じゃあ一緒にバザーに出かけましょうという、そんなところまで一緒に携わって動いている会社です。

山村地域だからこそ得られるメリット、連携し合うことで得た実感

(野中)自然栽培はとっても手がかかります。障がいのある方はそういう作業と相性が良かったので、活躍されています。他の産業より受け入れる障がいの幅も広いです。うちは生活介護が必要な方や言葉の不自由な方たちも来てもらっています。仕事も色々あります。例えば虫取りなら、彼らは虫を虫かごに入れているような感覚で楽しむので、いっぱい虫がいるところを見つけるんです。そういう違った視点で仕事に取り組んでくれて、結果的にすごく助かって良いものができています。

(今枝)畦道は、とにかく環境がいいと言われています。まちの方だと、スピードが速くて生きづらさを感じていても、山間地域でのんびりとした環境の中で仕事が出来るのが面白いとか、まちではなかなかできない薪割りの仕事などもあるということで、そこに利用者の方たちは魅力を感じてくださっています。課題もあります。山村地域の地元にお住まいで精神疾患だとご近所に知られていない方が、畦道に来ることで自分の障がいや病気がわかってしまう。本当は居場所がないんだけど、地元だからこそなかなか行きづらい、という声をいただいています。そういう方は家族と繋がっていけたらいいなと思います。

(栗本)福祉事業所や福祉に携わる人たちは、そこに居る利用者の方とか困りごとを抱えている人たちに、やはり地域で普通に暮らしてもらいたい、当たり前に暮らしてもらいたい、という思いで今までいろんな努力をしてきています。ここ1、2年色んな業界の方たちとお話ししていると、やっぱり福祉に携わる人だけで、そういった方の生活を考えていくというのは多分無理なんだな、と最近気づきました。まずお互いを知るとかそれぞれが何をしているかという会話が膨らんでいくことで、困りごとの共有や、お互い様という関わりができてくるのかなと思いますので、あんまり急がずに、色んな方と顔見知りになって、やっていることを伝え合えるといいなと思います。

(洲崎)お三方に話を伺って、いろんなやり方で、ハンデがあったり、高齢だったり、引きこもりだったり、問題を抱えていてもどんな人も共同体にコミットして関わり合いながら笑顔になったり笑顔にしたりするような生活ができる、現実にそれをやられているということが聞けてとても嬉しくて幸せに思いました。
 私たち一人一人にできることがある。そんなできることをやることで、みんなが幸せになれるような、そういう社会づくりをここにいる登壇者のみなさん、出演者のみなさん、参加者のみなさんそれぞれがやって、お互い幸せになっていけるような社会にしていきましょうね。今日はとても素敵なお話しをしていただいてありがとうございました。

「この世界で共に描こう!お絵かきコーナー」など、文化祭をきっかけに知り合い、世代もさまざまな方々がそれぞれに今を楽しんでいる様子は、都市と山村に暮らす個人が互いに支え合いながらつながる様子でもあるように感じました。(田中敦子)


この世界で共に描こう!コーナーなどの様子


農家さん、体験コーナーなど出店の様子


お友だちタイム〜みんなが仲良くなるゲームの様子