『くたびれつつある日本を山村から再生する』~令和3年度いなかとまちのくるま座ミーティング『いなかとまちのミライを語ろう』

左より田中センター長、活動者の上田光太郎(うえだこうたろう)さん(あさぷろ)、長坂真理子(ながさかまりこ)さん(常楽寺)、柳澤二郎(やなぎさわじろう)さん(みんなのしきしまプレーパーク)、藤澤あや(ふじさわあや)さん(ゴン
ゾレトレイル)、安藤さち子(あんどうさちこ)さん(松平地区移住定住委員会)、ミニ講演登壇者の高野雅夫(たかのまさお)さん(名古屋大学大学院環境学研究科教授)、ファシリテーターの稲葉久之(いなばひさゆき)さん(写真撮影の時のみマスクを外しています)

令和3年度いなかとまちのくるま座ミーティングを、2月5日㈯に開催しました。
テーマを「いなかとまちのミライを語ろう」としたのは、コロナ禍も2年経ち、そのなかで希望を語り合う場にしたかったからでした。昨年度同様、残念ながら急遽オンライン開催となりましたが、県外や海外からも申し込みがあり、当日は約100名ほどの方に参加いただきました。

第1部は豊田市の山村地域ともつながりが深く、現在は岐阜県恵那市飯地町に移住し活動、ミライの職業訓練校校長をしている名古屋大学大学院環境学研究科の高野雅夫教授のミニ講演会。第2部では豊田市の地域活動者5名のリレー紹介。第3部では「くるま座談義」と称して、参加者が小グループに分かれ語り合う場を設けました。今回は第1部の後半から最後まで、ファシリテーターに稲葉久之氏をお迎えし進行していただきました。本号ではその一部をご紹介します。

第1部 高野雅夫氏講演会
『くたびれつつある日本を山村から再生する』

「東京に行った際に、車窓からの風景が随分くたびれたなと感じた」と冒頭話し始めた高野氏。くたびれた日本が元気になるヒントが山村にあると言います。

◆日本社会の変化とほころび
日本の人口は明治維新から大幅に増加し最近ピークを迎え減少に転じました。これは150年ぶりの歴史の大転換期です。ここに至るまで高度成長期ならではの社会システムが出来上がりました。良い高校・大学を経て大企業に入ることを目指すようになり、女性は職場結婚で専業主婦が安泰な人生モデルとなりました。
 
しかし、人口減少により「年功序列・終身雇用」が崩れだし、様々な「ほころび」が生まれています。会社に社員が守られていた時代は終わり、パワハラや長時間勤務で精神を病み休職・退職する人が増えたり、非正規雇用の増加、女間格差も大きく、特にひとり親家庭の半数以上が貧困家庭。生涯未婚率も上がっており、人口減少は進む一方というのが現在の日本です。

◆「ミライの職業訓練校」
ミライの職業訓練校は、おいでん・さんそんセンターの取り組みの一つです。今までの人生方程式が通用せず、悩む人が増えました。ここでは受講生たちがモヤモヤを深め、小さな実践をしていく「仮説転がし」をしながら、何度も語り合う場づくりをしています。ルールは「否定しない」、「結論を出さない」、「何を訊いてもいいけど、答えなくてもいい」、「訊かれていないことを話してもいい」。大切にしているのは「弱さの情報公開」。安心して語れる関係性のトレーニングをしています。


◆『持続可能社会』を目指す
私たちが将来の展望を見出すことができるのは、縮小した先にバランスを取って安定していく『持続可能社会』です。持続可能な社会は、今の地球上に存在していないので、自分たちで作り出していくしかない。そのヒントは山村にあるのではないでしょうか。

2014年の政府調査で20~40代の若者の3~4割が田舎暮らしに関心あるという結果が出ました。実際移住した若者にその理由を尋ねると、「自然豊かなところで子育てをしたい」、「環境に配慮した生活がしたい」と言います。そして、田舎だと周りの人に「若い」というだけで頼りにされるのが嬉しいと。収入が減ってもやりがいがあると。頼まれ仕事をしていく中で地域課題を発見し、起業していくケースも多くあります。これをミラ職では「多業から天職へ」と言っています。

◆移住のホットスポット
田舎でも移住者が集中してくるところと来ないことろがあり、集中している地域を「移住のホットスポット」と呼んでいます。豊田市はホットスポットの一つ。同じ田舎でも移住者が多いかどうかは「住まい」があるかの違い。豊田市は空き家を発掘するために、地域の方たちが積極的に交渉に動いています。

◆子どもは「群れ」で育てる
大人も子どもも群れの中で生きている。人間もサルの仲間なので群れで生きるようになっています。群れで育つ中で、子どもは恰好いい大人の姿から学び、世界を旅し、また自然の中に戻り子どもが生まれる。これが移住してきた人たちの自然な姿、「循環型社会の人生方程式」ではないでしょうか。

第2部 豊田市地域活動者リレー紹介

○安藤さちこさん 松平地区 移住定住委員会副会長「住シェルジュ」「まちの隣でいなかぐらし」

安藤さんは、神奈川県生まれの自分が松平出身の夫と出会い、農業をしながら現在の松平に家を建てるに至った経緯と、移住者が中心の移住定住委員としての活動を紹介しました。移住定住のホームページを作ったり空き家や小学校の見学会などを開催。表に出ない交渉の積み重ねがあり、その活動の中で一喜一憂せず息長くやっていきたい、と語りました。


○藤澤あやさん 足助地区 ゴンゾレトレイル

足助地区御内町在住。御内町は知立市ほどの広さに50人以下が暮らす山間の地。子どものいる世帯は藤澤家のみです。地域の未来のためにも、人が訪れて空気感を感じてほしいと、地元出身のパートナーと山林を整備し、「ゴンゾレトレイル」プロジェクトを始めました。体感を大事にした様々なワークショップやイベントを開いています。住み始めて10年たち「最初は重圧も感じたが、自分の意志でここで生きていくと覚悟を決めた時から可能性が広がった」と力強く語りました。

新たに御内町の樹木から蒸留したオリジナル精油のブランドも立ち上げ、こちらもSNSで情報発信をしています。


○柳澤二郎さん みんなのしきしまプレーパーク 旭地区

生まれは名古屋市、小中学生を長野県の田舎で過ごし、その後海外含め様々な場所や職業を経験し、旭地区に移住。現在、名古屋の会社に勤めながら、テレワークを活用し、旭地区での暮らしを楽しんでいます。コロナ禍の都市部の子育て環境はかなりシビアだったけれど、旭地区では子どもたちがのびのび過ごし、テレワークで発想力豊かに働ける。こういう生活スタイルを子育て現役世代に伝えていきたいと語りました。

しきしまプレーパークの活動中の写真では、子どもたちが想像力豊かに生き生きと遊ぶ姿を紹介し、「誰もがありのままで過ごし、それぞれが主役になれる場です」と話しました。


○長坂真理子さん 下山地区 常楽寺 

430年という歴史のある常楽寺の娘として育ち、現在もお寺で子ども3人を育てる長坂さん。仏事の他に親子向けののイベントやコンサートなどを行ってきました。しかしコロナ禍でイベントや子どもの遊びが制限されており、そんな人たちがのびのび過してほしいとお寺に親子連れがたくさん集まって遊ぶ場づくりをしています。自然豊かな境内で0歳から小学生までが自然発生的に遊び、その横で大人たちも楽しく過ごしている。子どもの育ちを温かく見守りながら、子育ての輪が広がっている様子を生き生きと語りました。

今後は地元の農家に教えてもらいつつ、子どもたちと小さな畑づくりに取り組む予定だそうです。


○上田光太郎さん 旭地区 あさぷろ 

あさぷろとは、豊田市旭地区に密着した大学生の団体で、旭地区の良さをインスタグラムなどで情報発信中。より旭地区を知ってもらおうと商品開発も予定しています。上田さんは現在、名古屋との2拠点居住。ここで様々な頼まれごとをするうちに、自分の好きなものが分かってきたことや、多業という働き方を知り、人生の選択肢が広がったことがとても良かったとのこと。半農半林塾で学んだ山のことも含めて、他の人にたくさん伝えていきたいと語りました。

コロナ禍の元でも、実は地域で色々な活動が行われいてることを改めて確認する場となりました。今はまさに大変革時代。新たな持続可能社会を群れながら生きていきたいものです。(小黒敦子)


参加者からの感想

・どんな方がどんな想いを込めて、地域に根ざした活動をしているのか、短い時間の中でも伝わってきました。まだまだ知らなかった活動も多く、皆さまのSNSを早速フォローしました。

・実践されている方たちのお話はどれも参考になりました。しきしまプレイパークや常楽寺の取組での年齢を超えた子どもたちのコミュニティ形成は昭和の良さを取り戻す素敵な取り組みですね。

・それぞれの方の活動のSNSでの発信も含めて、さまざまな取り組みをされていて、驚きました!観光でしか知らなかった豊田を身近に感じました。

・地域を横断した人の繋がりを生む機会になると感じました。引き続きの開催をよろしくお願いいたします。