「暮らしに生かす自然の力」〜平成30年度いなかとまちのくるま座ミーティングを開催〜

2月3日(日)、平成30年度いなかとまちのくるま座ミーティングを足助交流館で行いました。 第1部のオムニバストークには106名、第2部のくるま座談義には94名、第3部の交流会には38名と、市内外から多数参加いただきました。
 今回のテーマは、「今、見つめ直したい 暮らしに生かす自然のチカラ」。手間、コストがかかるといって、文明の利器にとって代わられた畜力、木・竹など自然の恵み、これからの可能性が期待される自然エネルギー。
 一度は暮らしの中から手放した自然のチカラを、今、仕事や暮らしに積極的に取り入れている方たちをゲストに迎えました。

第1部オムニバストーク

 第1部オムニバストークでは、持続可能な社会の道筋を作っている4名が、それぞれの活動について話しました。

グリーンウッドワーク

伐ったばかりの瑞々しい生木を人力の道具で加工して、小物や家具を作るグリーンウッドワークについて説明したのは、岐阜県立森林文化アカデミー准教授の久津輪雅さん。
 「産業革命でほとんどが機械に置き換わったグリーンウッドワークが1980年代からイギリス、アメリカ、スウェーデンなどで再評価されています。日本にも、かつて岐阜県高山市の杓子や石川県我谷村(現在は存在しない)の我谷盆などのグリーンウッドワークがあり、消滅寸前でしたが、最近復活させた人がいます。一緒に講座を開催したところ、募集開始から30秒で30人の申込みがあり、びっくりしました」と話します。

馬の力

次に、馬の力について、一般社団法人馬搬振興会代表理事の岩間敬さんが話しました。30歳で、スポーツの馬の世界から、馬を使った農林業の世界に転身した岩間さん。
現在は森で伐った木を馬で搬出する馬搬の継承と普及に取り組んでいます。2011年にイギリスで行われた馬搬の大会で優勝した実力者です。


第1部オムニバストークの様子

馬搬の他にも、馬で草刈り機を引いたり、観光用のスノーチューブを引いたり、子どもたちと馬を綱引きさせたり、シンプルに馬の力を感じてもらう活動をしています。
 「馬のエネルギー源は草です。草は太陽の光で生えてきます。石油など遠くから来るエネルギーから、すぐ目の前で構造がわかるエネルギーに変えていけるといいなと思う」と話す岩間さん。4月には、畜力の可能性について国際連合で講演をすることが決まっていて「動物を使うことの価値を世界中に広めたい」と意気込んでいます。

西粟倉村の起業とエネルギー 

岡山県の西粟倉村に所在地を置く㈱sonraku代表取締役の井筒耕平さんはローカルベンチャーとエネルギーについて話しました。西粟倉村は人口1500人弱にも関わらず、2006年から13年で33社が起業しています。
 「地域資源、合意形成、地域、定住、の全てにこだわらないのが西粟倉村の起業の特徴です。やりたいことをやればいいという雰囲気で起業が増え、結果子どもの数がV字回復したりしています」。井筒さん自身も2012年に会社を設立し、現在コンサルティング事業、バイオマス事業、宿泊事業をしています。
 「バイオマス事業では、製材所から出る端材や、山から伐り出されたC材(質の良くない材)を薪にしてボイラーを通じて熱(給湯、暖房)の供給をしています。徐々に灯油の代替エネルギーとして予定通りに供給できていますが、電気のように固定買取制度が無いので、収支としては厳しいです。労働生産性のことを考えると、葛藤はあります」と話しました。

農業を守る狩猟

オムニバストークの最後を締めくくったのは、足助地区の清水潤子さん。介護士だった清水さんは、2014年に第1種銃猟免許を取得、昨年新盛自治区に山里カフェMuiをオープンし、自ら猪や鹿などの料理を猟師飯として提供しています。「猪で約6000万円、鹿で700万円の農業被害が出ています。その一方で、有害鳥獣駆除されているものの9割が、食べられるのに埋められている。高齢化が進む地域で、農業を継続していくためにも、命を食肉としていただくためにも、もっと皆さんに興味を持ってもらい、若い人が狩猟をやっていかなければなりません」。
 清水さんは、狩猟者を育成するためにNPOの立ち上げを計画しています。また、実際に山に入って、猪や鹿の生態について学び、解体をする狩猟体験ツアーも企画。障がい者施設と共働して、獣肉のペットフードの開発に取り組んだり、精力的に活動しています。


分科会①「木づかいで変わる暮らし」

岐阜県立森林文化アカデミーで久津輪さんが教えるグリーンウッドワークを実際に体験してみようということで、ワークショップが行われました。
 久津輪さんから道具とその使い方についての説明、豊田森林組合の山田正和さんから木工に使う木材の性質について説明を受けた参加者は、5種類の木と専用の刃物で鍋敷きを作りました。「生木の手触りがとても気持ち良かった」、「木の性質をうまく生かして暮らしに欠かせないものが作れるとわかった」などの感想がありました。


削り馬という独特の道具にまたがって木工を体験する参加者

分科会②「馬・動物とともにある暮らし」

馬で田畑を耕したり、馬で木を搬出したりすることのメリット、馬の育成についてなど、活動の具体的な話について(一社)馬搬振興会の岩間さんに聞きました。参加者の中には、「ちゃんと育成できなければ、甘やかしてただのペットになってしまうという岩間さんの話を聞いて、ぼんやりと馬を飼いたいという考えではなく、ビジョンを持つことが必要だと感じた」という感想がありました。


「家畜は草を食べ、糞は堆肥になるから、非常に合理的」と岩間さんは話していた

分科会③「地域のエネル ギーは自分たちでツクル」

 ㈱sonrakuの井筒さんに加え、(一社)三河の山里課題解決ファームの萩原喜之さん、㈱松原電機の松原俊介さんにも話題提供してもらい、参加者全員でエネルギーの地産地消について話し合いました。松原さんが「電気のない生活は考えられない社会になっている。地域で電気を確保することがすごく重要」と話し、萩原さんは、「当事者意識を持ってやっていくことが大事、行動してほしい」と参加者の背中を押していました。


分科会④「ヘンタイが中 山間地農業を救う!?」

「中山間地農業の未来像」がどうなっていると良いかについて参加者で意見を出し合った後、自らを「ヘンタイ」という足助地区で米農家を営む江崎雄一郎さんが、米作りを始めた経緯や、経験談について話しました。ここで言うヘンタイとは、こだわりの強い挑戦者のこと。有機栽培の米づくりにこだわりを持つ江崎さんが別の職業から農業の世界に飛び込んだことから「江崎さんのような方を受け入れる土壌があり続けることが、中山間地には必要」という参加者の意見もありました。
 
 日本は2060年までに8600万人まで人口が減るという予測があります。縮小していく社会で、、新しい技術を上手く使いながら、自然のチカラを生かして暮らすことが、幸福感につながるのではないか。ゲストの話を聞き、おいでん・さんそんセンターが目指す未来が、もうそこまで来ていることを感じました。(木浦幸加)


米農家の江崎雄一郎氏(中央)