足助高校生徒が地域の実践者に学ぶ研修ツアー~旭地区と小原地区で地域の課題解決と魅力発信に取り組む現場を知る
おいでん・さんそんセンターがツアーを支援
9月9日(金)、愛知県立足助高等学校2・3年生の観光ビジネス類型の生徒40名が、地域の課題解決に取り組む事業所の現場と実践者のお話から地域の現状を知り課題解決のプロセスを学ぶため、旭地区と小原地区を訪れました。
地域で仕事をつくるということ
最初に訪れたのは旭地区の「つくラッセル」。2017年に閉校した旧築羽小学校の跡地を利用し、地域の拠点となっている場所です。かつての校庭は、マレットゴルフ場や販売用の薪の山があり、各教室はレンタルオフィスや工房などに使われています。
1人目の講師はつくラッセルを運営している㈱M-easy代表取締役の戸田友介さん。現在、様々な事業を行っている戸田さんですが、全国から集まった若者10人が地域の空き家を使って共同生活し、農業をしながら地域の一員として暮らす「日本再発進!若者よ田舎を目指そうプロジェクト」が原点だと話します。
学生時代に起業し事業を始めていた戸田さんは、2009年に旭地区で始まったこのプロジェクトを運営することになりました。参加した若者たちが共同生活の難しさや農業がうまくいかず焦りが募っていた時に、「あんたらが、いてくれるだけで嬉しい」と地元の方から言われたことが転機になったそうです。評価ではなく自分たちの存在そのものを受け入れてもらった経験が、その後の活動の動機になったと戸田さんは話します。
つくラッセルを拠点に、課題解決に向けた取組が実践されています。そうした取組により活発になった地域にたくさんの人が移住しており、好循環が生まれています。こうした取組を実践する戸田さんは生徒たちに向けて、「お金がないから助け合いや創造性が生まれる。課題が多いから主体的になれて楽しい。『働く』とは人のために役に立つことでお金をもらうこと」と語りました。
話を聞いた生徒たちからは、戸田さんが関わっている「旭木の駅プロジェクト」に関する質問や多忙な戸田さんを気にかける意見が出るなど、生徒たちは戸田さんの活動に興味を持った様子でした。
その後は、つくラッセルの中を自由に見学。ちょうどこの日は、音楽家「デュオ・ル・リアン」のコンサートの練習がされており、たまたま居合わせた生徒たちに、ウェルカムソングを歌って歓迎してくれました。
消費者とつながり、地域課題を解決する仕組み
二人目の講師は、前おいでん・さんそんセンター長で、(一社)押井営農組合代表理事の鈴木辰吉さんでした。「農の存続が集落の持続化と密接に関わっている」と話す鈴木さんは、集落全体で農業を行う旭地区の押井営農組合の活動について説明しました。
旭地区押井町では、今後10年で現在77人の人口が半減し、そのほどんどが離農する可能性があることに危機感を持ち一般社団法人を設立しました。町内の田んぼは全て法人に権利を移し、離農する人がいても耕作放棄地にならず維持できていること。稲作はコストがかかり普通の流通では赤字になってしまうため、消費者と年間契約をし、適切な栽培経費を負担してもらう『自給家族』という取組を始めたことが説明されました。エシカル消費(倫理的消費)の高まりや健康志向、田舎とつながりを持ちたい都会暮らしの人からの問い合わせが相次ぎ、現在98家族が契約し、2.4ヘクタールの農地が荒廃から守られているそうです。
「自給家族の契約者が押井町にお米を取りに来ると、一緒に来た子どもがトンボを捕ったりして遊んでいる。これも観光の1つ。地域の課題を楽しく解決する過程には、観光の要素も含まれてくるのではないかと考えている」という鈴木さんは、生徒たちに向け、地元の人には気づかない山村の魅力や価値が埋もれており、それを活用して山村地域ならではの観光を考えてほしいと語りかけていました。
そこにしかない地域の魅力を伝えるツアー
生徒たちはお昼を挟んで、小原地区の小原交流館へ移動し、広告デザイナーであり、地域資源を活用した観光ツアーを企画する『三河里旅』の鈴木孝典さんの話を聞きました。当日最後の講師を務める鈴木さんは、広告デザイナーという仕事柄、地域の魅力を通じて、それを楽しんでいるたくさんの地元住民に出会い、2020年に地域限定の旅行業の資格を取得し、地域の魅力に触れてもらうローカルツアーを企画しています。
「誰に、何を、どういった見せ方で効果的に届けるのかを考えるスキルは、デザインをする際にも、ツアー内容を企画する際にも必要だ」と話す鈴木さん。最後に、真剣な表情で話を聞く生徒たちに向け、「若いみなさんならではのセンスが必ずあるので、自信を持って様々なことにチャレンジしてみてください」とご自身の実体験を踏まえてアドバイスの言葉をかけていました。
生徒たちに湧き上がる想い!
今回の研修ツアーに関する生徒のみなさんの感想の一部をご紹介します。戸田さんの話を聞いた生徒は、「印象に残ったのは『どんな施設より、誰とするか』という言葉や、誰向けなのか、誰とどんなことをするのかを最も重要視し、事業をする際は『自分たちで創る、お互いをよく知る、共に働き・感じて・関わることが大事』ということ。今後、足助のおひなさんのイベントに参加する際に大事にしたいです」と話し、鈴木辰吉さんの話を聞いた生徒は、「新たな消費志向や消費者の需要なども考えながら、地域の課題を解決することにもつながる事業をするのはすごいと思いました」と話していました。また、別の生徒は「地域の特色を生かしてツアーを実施し、山間部の活性化を実際に行っていてすごいと思いました。地域の方々がガイドになることで深い体験を提供することができるというのもすごいです」と鈴木孝典さんの話を聞き、ぞれぞれの生徒の心にひびいている様子でした。
観光ビジネス類型というと「観光にまつわる学び」と単純に思ってしまいますが、その切り口はなんと多様にあることでしょうか。すでにそこにいる人・あるものに光を当てること。自然環境含め、背景を探ること。地域課題を自分事と感じ動いてみること。高校生という多感な時期だからこそ、主体的に生きる人々との出会いは貴重な体験になるでしょう。(小黒敦子)