『綾渡の夜念仏と盆踊り』がユネスコ無形文化遺産に登録~縄文時代から続く集落で守り繋いできた民族芸能。人口減少下で、どう未来に繋ぐかが課題

風流踊りがユネスコ無形文化遺産に登録

令和4年11月、香嵐渓から東へ約5キロ、標高500メートルほどの山あいにある豊田市綾渡町で昔から引き継がれてきた 「綾渡の夜念仏(よねんぶつ)と盆踊り」が、風流踊りの1つとしてユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の世界無形文化遺産に登録されました。

 世界無形文化遺産は、国際条約に基づく文化遺産を守る枠組みの1つで、形のない文化遺産(無形文化遺産)について保護を図ることを目的としています。また、24都府県41件が指定されている「風流踊り」については、文化庁のページに【華やかな、人目を惹く、という「風流」の精神を体現し、衣裳や持ちものに趣向をこらして、歌や笛、太鼓、鉦などに合わせて踊る民俗芸能。除災や死者供養、豊作祈願、雨乞いなど、安寧な暮らしを願う人々の祈りが込められている。祭礼や年中行事などの機会に地域の人々が世代を超えて参加する。それぞれの地域の歴史と風土を反映し、多彩な姿で今日まで続く風流踊りは、地域の活力の源として大きな役割を果たしている】と説明があります。

 今回、「綾渡の夜念仏と盆踊り」とはどんな伝統行事なのか、また今後の展望について取材しました。

平勝寺を中心としたお盆の行事

夜念仏は、新仏(死後初めての盆に迎えられる死者の霊)の家を若連(35歳までの男性)が回り、霊を慰めるために回向(成仏を願って仏事供養すること)を手向け、お施主にもてなしてもらったお礼に手踊り(盆踊り)を踊るお盆の行事でした。昭和35年まではこのスタイルで実施していましたが、若連の対象住民が少なくなってきたために、現在は綾渡町内に住む住民によって構成される保存会が結成され実施主体となっています。

それ以降、毎年8月10日と15日に綾渡町にある曹洞宗の平勝寺の境内で行われています(令和2〜4年は7月の練習のみ実施)。 平勝寺には、17年に一度ご開帳される像高170センチの木造観音菩薩像があり、檀家を含めて村中の人たちで大切に祀っているそうです。ご開帳の際に納められるお布施は、代々村のために使われていて、「綾渡の夜念仏と盆踊り」にも充てられているため、これまで保存会費として会員から徴収したことがないとのこと。集落にとって、お寺がいかに中心的な機能を果たしているかが窺えるエピソードです。

夜念仏の日、午後7時ごろから、菅笠をかぶった男性たちが鉦の音に合わせ念仏を唱和しながら参道を進みます。参道を行き来する人たちの無事を祈るため、道筋に立っているお地蔵様への回向をしながら、山門に上がります。そこで、「門開き」を唱え、和尚に迎えられると、観音堂の前、氏神神明宮前、最後に平勝寺本堂前で回向を唱えて終わります。

約1時間の夜念仏が終わると、住民たちが輪になって盆踊りを始めます。特徴的なのが、太鼓や三味線など一切使わず、「音頭取り」と呼ばれる唄い手の唄に合わせて下駄の足拍子だけで踊ること。現在では6つの手踊りと4つの扇子踊りの10曲が残っているそうです。

「越後甚句や、御嶽踊りなど、昔の綾渡の人が山岳信仰として越後や木曽を訪ねた際に覚えて持ち帰ってきたと思われます。今や発祥の地でも残っていない唄や踊りが、綾渡で続いています。街道を外れた山の上の集落だからこそ、昔からの伝統が残り続けたのではないかと思う」と、綾渡夜念仏と盆踊り保存会会員の寄田錡さんは話します。

住民だけで維持していくのは難しい

毎年7月になると、毎週土曜日に綾渡町の小学生から大人までが集い、練習を重ねています。しかし、集落の人口は、26世帯73人(2023.1.1現在)と減少傾向。今回「ユネスコ無形文化遺産」に登録されたことについて喜びと同時に、今後の継続について不安があるといいます。住民の一人は、

「これまでにも、夜念仏の良い写真を撮りたい観光客どうしの言い合いや田んぼへの無断の立ち入りなど対処が難しい状況がありました。見物客のためではなく、住民の暮らしのための夜念仏や盆踊りだと思うのですが、その線引きをどのようにしたら良いのか、答えが出ていません。そのうえ、今年からはこれまで以上に注目されると予想され、もう住民だけではどうしようもできないというのが実感です」と漏らしています。

これからも、夜念仏と盆踊りが綾渡の住民たちが心を寄せる場であり続けるためには、行政を始め関係各所のサポートが必要となります。また、人口減少・高齢化の局面で、住民だけで担っていくには限界があるため、集落が綾渡の継続を願う個人・団体と繋がって、一緒に活動をしていくことが一層重要になってくるのではないかと感じました。おいでん・さんそんセンターも、関係人口増加のために尽力したいと思います。(木浦幸加)


豊田市役所足助支所に掲示されている垂れ幕


夜念仏の後に平勝寺で行われる盆踊り