足助・萩野小の地域共働本部コーディネーターとボランティアが支える、地域子どもの居場所づくり事業スタート!

なんとものんびり、落ち着く空間でした。木がたっぷりと使われた天井の高いホールで、見守りボランティアを囲んで3人の小学生が裁縫をしています。着物の端切れで作っているのは「つるし飾り」のうさぎ。子どもの手のひらにちょこんと収まるかわいいサイズ。別のテーブルでは本を読む子。その隣では、ピンポン球でコーディネーターと遊ぶ子たち。ここではやることが強制されない。言い変えれば、やらないという自由が尊重されています。


地域で子どもを育てる 

足助地区の萩野小学校は百年草を通り過ぎた先にある、生徒数25名の小規模校です。今年の夏、豊田市の山村地域では追分小学校に次いで2校目の地域学校共働本部(※1)による地域子どもの居場所事業(※2)が始まりました。

今年度は休校による学習の遅れを取り戻すため、従来の夏休み期間のうち17日間、半日授業が行われています。地域子どもの居場所事業の時間は半日授業後の11時から17時半。萩野小の児童なら誰でも参加が可能で、飛び入り参加もできます。参加費は無料。お昼ご飯は原則お弁当持参で、家で食べてから来ることも可能です。学校内のランチホールや家庭科室など地域住民に開かれているスペースを使います。送迎は保護者ですが、時間内で都合の良い時間を指定することができます。
 

利用者は常時7名ほどですが、ボランティア主催のイベントの時は、主に子どもどうしの口コミで飛び入り参加が増えます。ケーキ作りの日は13名が参加したそうです。足助小の学童を休んで参加する子もいます。
 
事業の担い手は地域学校共働本部コーディネーター、ボランティアです。現在ボランティアに登録している5名の方々は、皆さん小学生の保護者のお母さんたちです。


(※1)「学校を核とした地域づくり」を目指して、地域と学校が連携するためのネットワーク。教育委員会から委嘱された「地域学校協働活動推進員」がコーディネーターとして配置される。
(※2)地域住民が運営し、子ども(主に小学生)の安心・安全な居場所を設け、遊びなどを通して子どもや地域住民同士の交流の機会とする事業。原則無料

地域課題の掘り起こし

地域学校共働本部のコーディネーターは山本薫久さんと島いずみさん。コーディネーターに任命された山本さんたちが最初にしたことは、小学生を持つ家庭へのヒヤリングでした。教師が下校に付いて行くのに同行し、保護者と顔を合わせて各家庭が抱えている課題を洗い出していきました。

度々耳にしたのが送迎問題でした。下校時に一人になる場所からは保護者の迎えが必要になります。朝、送って行く場合も同様です。その上、子どもの足では友人宅に行けないため、大人の都合で子どもの遊びが制限されてしまいます。
 
また、3~5月の休校中には親の不在などを理由に小学校に登校ができましたが、受入時刻が9時では遅くて不便だということ。加えて、学童保育が夏季休暇中に実施されるか見通せない状況(※3)で、多くの家庭が子どもの日中の過ごし方に不安を抱いていることが分かりました。

萩野小・地域学校共働本部の目的は「①地域に開かれた学校づくり②地域で子どもを育てる地域づくり」。これに沿って、子どもが授業後に気軽に集まれて、地域の人たちが協力して作り出す居場所づくりが計画されていきました。

(※3)萩野小には学童保育がない。利用希望者は足助小の学童保育を利用している。今年、夏季の学童保育は実施されている。

コーディネーターの二人

コーディネーターの山本さんと島さんは、萩野自治区への移住者であり、かねてより地域を意識した市民活動を行ってきました。山本さんは10年ほど前から桑田和町の休耕田を復活させ、市街地の人やスローライフ志向の人たちと田んぼ作業を行ってきました。ここ2年ほどは「田んぼプロジェクト」として地元への移住者たちと取り組んでいます。一緒に活動する仲間たちは、萩野小PTA役員でもあり、子どもの居場所づくりの話をすると、すぐに賛同が得られました。

もう一人のコーディネーター島さんが25年ほど前に移住した頃、お子さんが通う萩野小は全校生徒約90名でした。(来年度は17名予想)学校脇には足助川が流れています。地域の親たちと共に「川あそびの会」を発足し、週2回くらいのペースで、子も親も交じり合って遊んでいました。また、以前は低学年の早帰りの子どもたちが川や野原で連れ立って遊び、地域の大人たちが野良仕事の傍ら見守るという関係性がありました。その後一斉下校に変更されたとき、大事な子どもの遊ぶ時間が奪われると親からは反対意見がたくさん出たそうです。島さんの「子どもの自由に遊ぶ時間を確保することは大人の役割」という想いは、これらの経験がベースになっています。


地域学校共働本部のコーディネーター島いずみさん(左)と山本薫久さん(右)。お二人とも萩野自治区への移住者だ

開かれた学校へ

学校、保護者、コーディネーターの思いが一つになり、地域子どもの居場所づくり事業はスタートしたのです。

教頭先生はこう話しています。「萩野小学校は、地域に開かれた学校というコンセプトが掲げられています。しかし実際は地域の方に気軽に来ていただける機会がありませんでした」。  

今後、子どもの居場所づくりに関わる住民が増えることで、より地域に開かれた学校になっていくことでしょう。

居場所づくりで見えてきたこと

取材当日、児童をお迎えに来た保護者は、「仕事をしているのでとても助かっている」と話していました。

学校内で地域子どもの居場所づくり事業を始めて、コーディネーターの島さんには、色々な発見がありました。「今まで学校外の場所が子どもには大切だと思っていたけれど、小規模校の子どもたちは、学校内でもリラックスしていて比較的自由だ」と感じたそうです。

そして、この事業のおかげで様々な手わざを持ったお母さんたちが地域にいたことが明らかになり、その方たちがボランティアとして居場所を支えています。

今後の活動については「月1回」の実施予定で、食事を一緒に食べる会などの案もあるそうです。子どもたちの自由な時間を支える地域の大人と保護者、教師との出会いが、これからどう発展してくのか見守って行きたいと思います。(小黒敦子)


子どもの居場所では、やることが強制されない。思い思いに絵を描いて過ごす子たち


子どもたちが理解し、守れるようにとひらがなで書かれた居場所のルール


撮影当日、ケーキづくりが行われていて13名が参加していた