移住者受入れが好循環を生む〜敷島自治区・過疎地域自立活性化優良事例表彰「総務大臣賞」を受賞

過疎地域の活性化に優れた成果を上げ全国のモデルとなる地域に贈られる令和2年度過疎地域自立活性化優良事例表彰において、旭地区敷島自治区が、最高賞にあたる「総務大臣賞」を受賞しました。
人口42万人の中核市の山村部での取組が、なぜ全国の「過疎地域」活性化モデルとして選定されたのでしょうか。


11月27日東京での授賞式

10年間の移住は40世帯

335世帯986人の敷島自治区は、10年前から移住者の受け入れに積極的に取り組んできました。年間の移住目標は2世帯。この間の移住者は、Iターン、Uターン合わせて目標の2倍にあたる40世帯、98人(市営住宅、企業の寮を除く)でした。

子育て世代が多いことから、自治区にある敷島小学校全校児童数は、2018年に34人まで減少していましたが、2020年には50人を超え、2022年には60人に達する見込みになっっています。
過疎地域の小学校児童数が倍増する稀有な実績の背景には、徹底した空き家活用と「福蔵寺ご縁市」、「ガキ大将養成講座」、「米づくり体験塾」を始めとする年間延べ5000人にも及ぶ都市との交流人口の多さがありました。


空き家片付け大作戦(加塩町)


ガキ大将養成講座さくら村(東萩平町)

住民意識を変えた「しきしま・ときめきプラン」

きっかけは、リーマンショック後2009年から2年半にわたって自治区内で取り組まれた豊田市と東京大学の緊急雇用対策事業「若者よ田舎をめざそうプロジェクト」でした。全国公募の若者10人が空き家で共同生活を送りながら耕作放棄地を活用し有機農業で生計を立てる社会実験的な事業です。
「しきしま・ときめきプラン2010」を策定した当時の区長近藤正臣(こんどうまさおみ)さん(79)は、「プロジェクトがメディアの注目を集め、遠巻きに見ていた住民も次第に若者たちを応援するようになった。地域の将来像を問われることも多くなり、将来ビジョンの策定を決断した」と当時を振り返ります。

自治区をあげた移住者受入れの取組みは、5年後の見直し「しきしま・ときめきプラン2015」から本格化しました。全戸対象の「私と家族の将来像」アンケート、計画案の全戸配布と意見募集、公開討論会、空き家を放置しないことなどを定めた「暮らしの作法」の全戸での貼付といった取組みが住民意識を大きく変えました。

プランの計画項目に沿った自治区組織の改革を断行した当時の区長鈴木正晴(すずきまさはる)さん(74)は、「アンケート結果から、持ち家のおよそ3割がわずか10年で空き家になるかもしれないという結果に衝撃を受けた。
年中行事をこなす自治区組織をプラン実行組織に変え、毎年進捗状況の確認と対策を話し合うことにした。それに応えてくれた各専門部の役員さんには感謝の言葉しかない」と、これまでを振り返ります。


プラン2015公開討論会


前区長・鈴木正晴さん

湧き上がるスモールビジネス

便利だった都市の暮らしを捨てて移住してきたIUターン者に共通するのは、終の棲家として選んだ田舎を、豊かな暮らしの場として未来に残したいという思い。プランで明らかになった地域の課題を自分の持つ知識とスキルで解決しようとするところからスモールビジネスが生まれています。

菓子製造の「すぎん工房」、Tシャツ・音響の「アサノエンタープライズ」、農家民宿「ちんちゃん亭」、森林保全の「旭木の駅プロジェクト」、産直野菜出荷の「メグ友の会」、「旭元気野菜の会」、「旭森の助産院」、製材工場、4人の有機野菜農家の新規就農など湧き上がるように生まれています。今年になって、都市部の企業2社が、空き家活用に乗り出しました。
顔の見える関係で小さな経済が回るスモールビジネスは、地域に活力をもたらし、新たな移住者や起業者を呼び込み、地域の持続化に向かうワクワクするような好循環を生んでいます。


Iターン女子による菓子工房「すぎん工房」(杉本町)

地域自治を経営する「地域運営組織」の胎動

「しきしま・ときめきプラン2020」は、地域自治の新たなフェーズへの挑戦ともいえます。
向こう5年で実現を目指す3つの重点プロジェクトは、移住による人口の若返りを図りながらも、人口減少は避けられないものとして正面から受け止め、経営的手法による地域課題解決、消費者と直接つながる農地保全、地域行事や自治単位の見直し、これに伴う「村おさめ」にまで踏み込むものとなっています。

「支え合い社会創造プロジェクト」は、高齢世帯や高齢単身世帯がますます増加する将来に備え、元気な高齢者やスキルのある住民が課題を抱える人や世帯を有償ボランティアで支える共助のシステムを事業化、「地域運営組織」が視野にあります。
元気なうちは支援し、助けが必要になれば支援されることが当たり前の地域を目指すものです。2021年からの試行に向け㈱三河の山里コミュニティパワー(早川富博(はやかわとみひろ)代表取締役)の強力な支援の下、アンケートなど周到な準備が進められています。

プランの策定を主導し、「総務大臣賞」を受賞した区長の後藤哲義(ごとうのりよし)さんは、「先輩区長はじめプランを推進した住民のお陰で受賞することができた。受賞を糧に誰も到達したことのない新しい地域自治のあり方を見つけるためにチャレンジするのが私の使命」と決意を新たにしています。そして、「自分たちでできないことは、都市の住民の皆さんや専門家、行政に頼り、ドキドキと心がときめくような楽しい取組みでなければ続かない」と地域づくりの秘訣を語ってくれました。    


しきしま・ときめきプラン


しきしま暮らしの作法

第二、第三の敷島自治区を

安定した雇用の場があり、外部からのお金が還流する地域活性化のあり方とは異なる活性化の姿が敷島自治区にはありました。風光明媚な観光地など特別の資源がない敷島自治区の資源は人であると感じます。
このたびの「総務大臣賞」の受賞は、辺境の過疎地が奇抜なアイデアで活性化を成し遂げた事例ではなく、都市近郊でも確実に進行する人口減少やコミュニティ機能の低下に立ち向かう地域であること、共助のシステム化「地域運営組織」への期待があるように思われます。
センターの使命は、第二、第三の敷島自治区を生み出すこと、「つながる力でミライを変える」ことだと改めて感じました。(木浦幸加)